前回(第1回~冒険の旅~)から、「身体感覚と記憶」がゲシュタルトのワークでどのように扱われるのかを解説しています。

<ケース>
九州に行った時のことです。ある放射線技師の女性が「私の問題は自分に自信がないことです」と、自分のワークの課題を取り上げました。
彼女は病院で放射線科の科長を務めています。
それなのに自分の能力に自信が持てないと言います。

今回は、このケースについて、どのようにアプローチしてワークを進めていくかを説明します。

第2回~ワークのアプローチ~

<アプローチ1> 言葉の背景にアプローチする

彼女が「科長になっている」ということは、それなりに組織が「能力ある人材」と認めたはずです。それなのに<自信がない>とはどのようなことなのでしょうか。この言葉は何を伝えようとしているのでしょうか。

それを確かめるために彼女の「顔つき」、「姿勢」、「動作」、「声」などから伝わってくるメッセージを身体感覚で受け止めようと試みます。ファシリテーターの私は「彼女の言葉の奥にある本当のメッセージは何を表現しているのだろうか」と自身に問いかけながら対話を進めるのです。

ゲシュタルト療法はファシリテーターの立場の人間もまた相手に<コンタクト>しているのか、言葉だけの対応になっていないのか、と問われるのです。

<アプローチ2> 一般論から具体化へ

どのようなことに自信がないのですか?

私はCTを撮ることには自信があります。それからマンモ(乳がん検査)の撮影も
上手に出来ると思います。肺のX線検査も大丈夫です。
でも、胃の検査をする時には患者にバリウムを飲ませます。そして台に載せて撮影する時に、上手に撮れないような気持ちになってしまうのです。

ここで当人は特定の状況で自信がないと感じていることが分かりました。
胃のレントゲン撮影の場面でのみ「自信がない」と感じてしまうようです。

<アプローチ3> 焦点を当てる

そこで彼女には患者の胃の中にバリウムが流れ込んで来るのをカメラ越しに観察している場面を再現してもらいます。

胃の中のバリウムを均等に付着させるために胃カメラの台を回転させます。
そして彼女が患者の胃の中のバリウムを確認しながら、
「胃の画像」に注意を向け続けます。

すると彼女に動揺が起こります。

「あっ、これ以上は無理」、
「もう苦しい」

という思いがこみ上げてきてしまうのです。
彼女は、「患者の立場になってしまった」のです。

<アプローチ4> 記憶が浮かび上がるのを待つ

彼女に、動揺している場面に居続けるように伝えました。
明らかに彼女は「胃の画像」を眺めながら、
「何か別の映像」を見つめているようでした。

胃カメラを覗き込んでいると、
「不安が高まり」、
「目の焦点」がかすれてしまうような感覚になります。

さらに「胃が緊張」し始めたことにも気づきます。

彼女には「子供の頃の記憶」が甦ってきていたのです。

彼女が見詰めていた「胃の画像」は患者の胃ではなく、
子供の頃の自分の「緊張した胃」だったのです。

<アプローチ5> 未解決な問題

子供の頃に、彼女はいつも母親から
「しっかりしなさい」
「あなたは何も出来ない」
と口癖のように叱られていました。
甦ったのは、その記憶でした。

彼女は一生懸命に勉強したのですが、
それでも母親は認めてくれないのです。
そのために一生懸命になると
「胃が痛く」
なっていたのです。

ここで、彼女の<未解決な問題>が明らかになりました。次回は、ゲシュタルトの<未解決な問題>とは何なのか、理論的な観点で説明します。

【10/5掲載予定】第3回~ゲシュタルトの理論<未解決な問題>~
【10/12掲載予定】第4回~ファシリテーターのプロセス~