正月の三日に青森まで飛んだ。寒波が来ていたが欠航にならずに無事着陸した。
空港から弘前に出て電車で黒石温泉郷へ。川沿いの宿に泊まった。

黒石温泉郷

翌朝はバスで目指すランプの宿へ。早目についたので、チェックインする前に温泉に入り、広い広間で昼食をとることにした。
正月三が日を過ぎていたので、50名ほど入れる広間に客は三、四組だ。
一人の男が、俺は5日も滞在してると大声でスタッフの女性に、これみよがしに声をかけた。誰も反応しない。

また、温泉に入り夕食となったが客はあまり増えていない。
俺たちの左横のカップルは津軽弁を話してたから地元組である。

しばらくすると若い男と二人の女性が来た。話し声から女は飲み屋のママの感じだ。言葉が汚い。それに合わせて若い男は坊主のようで、釣り合いが取れていない。
腐れ坊主よ、と連れ合いが言った。若い頃に東京の増上寺の坊主が飲み屋の女とスキーに行って骨折したと威張ってたと、その時の話をした。
いや違うな、きっと檀家さんだよ。断れなかったんだよ。と言ったが、じゃあ、もう一人の若い女はアルバイトで、ママが連れてきたか?それとも若い坊主が何事も起きないように事務員を連れてきたのか。見解が分かれた。

酒がまわりほろ酔い気分になった頃、昼間のオヤジが大きな声で、俺は、5日目だ、と声を上げたが誰も反応しない。その時に、どこから来たのですか?と相方が突っ込んだ。
一瞬、間を置いてから、い、イバラギと答えたが力がなくなっていた。言いたくなかったんだな。
大体だよ、暮れから三が日まで一人で泊まっていたら、家族は?奥さんは?親戚は?友達は?と思われるはずだよ。
俺なら小さな宿にしか泊まらないね。みんな家族連れだよ、あるいは愛人連れだよ、なぜ5日も滞在していると騒がずにいられないの?そこが誰も君を相手にしてくれないところじゃないの。
シーンとした一瞬の間の中で客たちの脳裏に、そんな言葉が空をグルグル回っているのが見えたほどだ。
ハワイから雪国の温泉地に来たと言いたいなら別だけど、青森に、わざわざイ、イバラギからですか?

二日目の夕食には、隣に若いカップルが座った。うーむ、まだ深い関係ではないな。女は少し緊張していて、体育座りしている。男は、変に優しい声で話しかけている。クライアントがどうのとかも言っている。
しかし医者ではない。医学用語が一つ出てこない。

朝食はもちろん俺は隣のカップルがつまみだ。女の子は優しい顔になって、満足した顔をしてる。男は、背が高く格好いい、しかしイライラした顔付きをしている。女の望みと男の望みがすれ違っている。二人は温泉に興味なく、一度も浴衣を着ていなかった。

三日目の夕食には、外人の女性が横に座った。何処から来たのですか?と聞いたが、なまりの強い英語だったので、通じなかった。暗いランプの下の食卓は料理が見えにくい。しかし彼女は臆することなくハシでつまんでいるので初めてではないようだ。体の大きな女性なので、ご飯のおかわりをニ回もしていた。
彼女は露天の樽温泉が気に入っているらしく、内湯には入らず、ずっと露天にいたらしい。

さて他の外人家族も来ていて、ここ10年はどうも訪れる外人が増えた。
前の日は秋田の鶴の湯から来た二人の女性がいた。
家族連れで来た男性が、台所口に行って、ココのイカメンチ(イカを入れたメンチは青森名物らしい)はスバラシイ、アオモリの駅で食べたより、ウマイです。と言った声が聞こえた。本物の家族である。

四日目の朝は、再び黒石駅から弘前に向かった、何と社内におむすびが飾ってある。おむすび列車は始めてだ。保育園や幼稚園児が作ったおむすびである。

雪景色を背景に、明けましておめでとう。ところで温泉の客より相方が気になるって? それはあなたの妄想ですよ。誰もいませんよ。そんなことよりおむすびを見てください。