札幌で有名な温泉は定山渓温泉である。その手前に松の湯という温泉宿がある。
もう何年もセミナーのあとはここに一泊か二泊することが多くなった。
温泉の質が良いのと、寂れた昭和の宿の感じが良い。
つまり客はあまりいない、これがまたいい。
その帰りは、真駒内駅から札幌に向かうが、この駅周辺もまた良い。なにもないのがいい。
駅前マーケットの中に小さなカフェがある。客が誰もいないのがまたいい。
窓際に2時間くらい座っていると色々なことが分かった。つまりこのカフェの社会的な役割だ。

昔、社会学の実験で公衆トイレの話を聞いて興味を持った。男の立ちションの便器が並んでいる位置でどこが最も使用されるのかを調べた人がいて、その結果、男は真ん中か、入り口手前の端の便器を使う傾向がある。

その理由はヒトが本能的に安全な場所を探すからだという理論だった。動物として立ちションしている時はやはり無防備な状態にある。
敵に襲われた時に逃げやすい位置が真ん中の便器た。左右に逃げる空間がある。入口の手前は外から見えにくいので安全を確保できる。
つまりヒトは社会的動物ではあるが本能的には命を守る行動を身に着けているという学説にえらく感動したことを覚えている。

マーケットの隅にあるカフェに2時間も座っているとカウンターの床の減りぐあいに目が行くようになった。
左の椅子の下の床が一番剥げている。
何故、そこが一番剥げているのかと2時間観察していた。暇なわけではなく社会学の観察であるぞ😤

まず最初に、ばあ様が来て座った。どうも馴染みの客らしくボソボソと話している。お昼はあまり食べないと言ったら、ウエイトレスのおねーさまが、それなら肉まんをちーんしなさいよ。栄養もあるしとのこと。

しばらくすると爺様が座った。やはりボソボソと札幌に行くらしいがどこかの駅で降りてタクシーに乗るンだべ、ってな会話だった。

するとお昼になるとまた別の爺さんが来た。お金をジャラジャラと出す。ウエイトレスがお金を拾い上げながら数えてコーヒー代をもらった。目が悪いことを互いに知っている行為だ。

このカウンターの左奥は馴染みの客の一等席らしい。ウエイトレスが皿洗いする位置で、その前に馴染みの客が座るようになった。対面で話せるからだ。

この田舎町に憩いのカフェがあった。その社会学的な証拠は床の剥げ具合が一番多い場所である。