第1回~冒険の旅~

私たちの記憶はいつも特有な感覚と結びついています。

子どもの頃を思い起こしてください。
私は武蔵小杉の駅周辺で小学生の時代を過ごしました。
その頃の武蔵小杉は駅から少し離れると田んぼや池があったのです。
いくつかの野原がありました。

その場所が今は高層ビルに変貌して若い人たちの「住みたい町」の
トップの人気を誇っています。

しかし、私が目を閉じて小学校に通う道の記憶をたどる時は、
田んぼの<水の匂い>や畔道の<水の流れる音>を思い出します。
道草をくって捕まえた泥臭い<ザリガニの臭い>。
そして子供たちが遊んだ空き地の野原の<風の匂い>などです。

このように、記憶は匂い、聞こえた音、手で触れた感触などと強く結びついて残っています。

ですから、私が「未解決な問題(Unfinished Business)」にアプローチをしている時は、

その人の話を聞きながら、
その当人の記憶にたどり着くプロセスとして、
五感の感覚と、身体感覚を意識
しています。

「どのような匂い」をクライアントが嗅いでいるのか、
「どのような風景」を眺めながら語っているのか、
「どのような身体感覚」を感じているのか、

ということを、私の経験と直感を信じて、クライアントと2人で<記憶>という宝物を探検するのです。

言ってみれば、「未解決な問題(Unfinished Business)」にアプローチする時には、当人と私は、2人の身体の中で湧き起こる<プロセス>と、お互いに<コンタクト>しています。それは、そのために、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という5つの感覚機能をフルに活動させて、身体内に湧き起こるFeeling, Sensation, Emotionを検索しながら「冒険の旅」を始めることでもあるのです。

今回から4週にわたり、「身体感覚と記憶」がゲシュタルトのワークでどのように扱われるのかを解説していきます。

<ケース>
九州に行った時のことです。ある放射線技師の女性が「私の問題は自分に自信がないことです」と、自分のワークの課題を取り上げました。
彼女は病院で放射線科の科長を務めています。
それなのに自分の能力に自信が持てないと言います。

このケースについて、実際にどのようにワークを進めていくのか、背景にあるゲシュタルトの理論は何か、ファシリテーターとしてのプロセスはどのように進んでいくのかを、次の予定で説明します。

【9/28掲載予定】第2回~ワークのアプローチ~
【10/5掲載予定】第3回~ゲシュタルトの理論<未解決な問題>~
【10/12掲載予定】第4回~ファシリテーターのプロセス~