「夢のワーク」のアプローチを、3回シリーズで解説しています。

第1回第2回ではユキミさんの夢のワークを例に挙げ、実際の展開に沿って5つのアプローチ原則を説明しました。

最終回の今回は、第6のアプローチ原則について説明します。

【ゲシュタルト療法の夢のワーク】
アプローチの原則6:ファシリテーターの理論的立場

さて6つ目のアプローチの原則はファシリテーターのための理論編です。

ファシリテーター自身が「夢」をどのように位置づけているのか、というテーマです。

夢は何を表しているのか、という事に関して2つの理論的な立場があるように思われます。

それによって夢のアプローチの方向が大きく変わっていくからです。

■1つめの立場: 夢は「未解決な問題」

夢のアプローチの背景にある一つの立場は、夢は個人の「未解決な問題(Unfinished Business)」を表しているという理論です。

この視点に立つと夢は未完了な出来事や感情や気持ちを脳が整理するための活動ととらえて良いでしょう。

この立場はフランスのサージ・ジンシャー(Serge Ginger)博士が唱えています。

■2つめの立場: 夢は「象徴」

もう一つの立場は、夢は人が体験したこと、あるいは経験していることを象徴として表しているという理論です。

ユングは夢をシンボリック(象徴)に理解するということを述べています。

何か具体的な問題を解決するために夢を見るのではなく、人生の意味をシンボリックに体験することで精神性を高めていく役割を担っているとみていたのです。

■アプローチの実際6:明確な理論的立場から関わる

ここでユキミさんの夢を例に考えてみたいと思います。

1.「未解決な問題」という立場をとる場合

もし、夢が「未解決な問題」として現れるという立場をファシリテーターがとるならば彼女の人生の未完了な事柄に焦点を当てる方向へアプローチすることが可能です。

森に行って探している動物に出会うことが出来なかったのですから、ファシリテーターは彼女に「あなたの解決していない出来事はありますか」と問いかけることが出来ます。

それはユキミさんの人間関係や親子のことかもしれません。また仕事で未解決な事柄かもしれません。

あるいはトイレの輝くガラスが砕けてしまったわけですから、「あなたは仕事や人間関係で行き詰っていることがありますか」「失敗や辛い体験がありますか」と現実の生活のなかにあるトラブルや葛藤に焦点を当てるかもしれません。

おばあさんが森を見詰めているので「あなたの人生の後半に不安がありますか」と問いかけることも出来ます。

2.「象徴」という立場をとる場合

2つ目のアプローチの背景にある理論的な立場は、夢は精神性や自己成長のプロセスを象徴的に表しているという視点です。

この立場からファシリテーターが関わるならば、夢を精神的なことの象徴として理解しようとします。

夢を見た人の自己成長のシンボルとして扱うようになるでしょう。未完了な課題ではなく精神世界としてどのような「意味」がありますか、と問いかけることが出来ます。

このプロセスは記載したとおりです。

トイレを作っている男の人達は楽しそうです。彼らになったユキミさんはダンスのように身体を動かしました。(猿や男たちの生命観)

そしてガラスが砕けて空に飛び散り、草むらに散らばって落下した時に「私の役割は終わりました」と輝くガラスは哀しげに言いました。

それは彼女の中の何かが終わったことを示すと同時に、彼女の新たな役割の再生の象徴とも思えます。(死と誕生)(再生)

しかし、私はあえてそれを日常的な仕事や役割に還元しないようにしたのです。シンボルはシンボルとして体験して欲しいからです。

また、森に探しに行って見つからなかった生き物になってもらいました。
それは猿でしたが、猿がユキミさんを強い好奇心で見ていたことに興味があります。
猿は日常の活動的なユキミさんの好奇心を象徴しているようにも思えます。(好奇心の象徴)

そして夢の中のユキミさんは静かに森を見詰めているおばあさんに惹かれています。

森も静かにおばあさんを見詰め、おばあさんの背中を見詰めているユキミさんを視野に入れています。

この夢は、彼女の中に芽生えた<静かな>世界を価値あるものとしている彼女の精神性を象徴しているのかもしれません。

ユキミさんが、夢の意味するものは私の中にある<静かな好奇心>と語った時に、私は中近東の格言を思い起こしていたのです。

静かに流れる川は底が深い

この意味を論じたり、心理的に位置づける必要はありません。夢は様々な側面を象徴しているからです。

このようにアプローチの原則の背景にあるゲシュタルト療法の理論的なことを理解するならば「夢のワーク」に関わることが容易になると思います。

■夢のアプローチ6つの段階

どのようなファシリテーターであっても原則として次のような段階が大まかに提示できるでしょう。

第1段階【夢について話をする】

 印象に残っている夢について語る

第2段階【夢に命を吹き込む】

 夢の扉を開けて入っていく

第3段階【夢を再体験する】

 夢の中での出来事を現在形で描写する

第4段階【夢を経験する】

 夢の中に登場した人、物、風景、エネルギーに<なる>

第5段階【夢を統合する】

 夢の全てが自分の一部分である

第6段階【夢の意味に気づく】

 夢の意味に気づく