何年も前の出来事を時々思い起こすことがある。そこは青森の弘前であった。空港に行くバスを待つ為にコーヒーを飲んでいた。
ゆったりとした空間の店だった。しばらくすると男と女の二人組が隣の席に座った。女はタレントか女優かと思えるほどの美人であった。年は三十路を超えている。その淡麗な顔つきからは想像していなかった酒やけした声が聞こえて来たのだ。大阪のバーのママさんか、夜の世界で生きている女だと思える。聞くとはなしに耳に入ってくる話に、いえ、耳をジャンボにして聞耳を立てていました。
女は酔ってはいないようだが言葉が少し変だ。周りを気にしてない様な大きな声だった。もしかしたらドラッグかなと思わせる口調だった。
私は、仕事をやるのは大変なのだ、みたいな事を相手の男に言っている。
男は女より若く二十代だが、女のあしらい方を知っていて、上手く付き合っている。この手の女には馴れていて、何を女が言っても動じていないどころか、男の方が上から目線で指示している。
雰囲気から察すると、女は金が必要か、困っていて、この男の属している集団か、組織の意を組んで青森まできたようだ。
女の人生が伝わるが、それを意に介さず仕事としてこの女を扱っている様が、何となく切ない。
薬かドラッグで感覚を麻痺させなければいけないような出来事が昨晩か、このニ、三日の間に起きたのか、それが目的で青森に仕事として来たのかと思える。
落ちぶれた女というには若すぎる。それを手慣れた感じてあしらう若い男との関係が空港バスを待つまでのコーヒー店で繰り広げられていた。