私は毎年恒例の行事のように帯広を訪れる。
いくつかの動機があるが、その一つにモール温泉の宿に泊まること。セミナーの後の開放感と疲れを癒してくれる。
今朝も部屋からエレベーターに乗った。途中から赤ちゃんを抱えたお母さんと一緒になった。オムツを付けたくらいの女の子と幼稚園児の男の子がいる。
小柄なお母さんだが繁殖力が旺盛な優しそうな女性である。
一階に着くと、旦那が、車の鍵はどこかなと奧さんに聞いた。ちょっと待ってね、降りたら。バッグの中だとおもうから。
同時にドアが開いた。小さな女の子に、ベビーカーを押すのよ、と言ったが中々指示した行動をしない。
そこに旦那のようにボーとした男の子がドアの入口で立ち止まった。
若いお母さんは赤ちゃんを抱えて両手は塞がっている。旦那と男の子を同時に面倒を見るので、彼女は思わず早くしなさいと、足で男の子を押し出した。
いくら優しいお母さんでも、やってられない家庭の一風景を見たような感じで微笑ましい。
ちょっと良い一コマだったなぁ、とおもいながら散歩していると、俳句の世界を彫り込んだ石が並んでいる。
作者は暮と彫られていた。
きっと秋になると、麦の穂が黄色くなり、風に棚引き、穂と穂、乾いた葉と葉、茎と茎が触れて音を奏でるのだろう。
家族の日常でも、早くしなさい、とお母さんが子供達に言うことも家族が織りなす笛の声だろう。
そう考えた時に、あのお母さんはボケっとした旦那にどんな音を出すのだろうか。聞いてみたいと思った。