何年も前に青森を訪れる機会があった。
迎えに来てくれた人が車を運転しながら、
「あら、今日は岩木山がはっきり見えるわ」と
私に語りかけたのか、独り言をつぶやいたのか、
そんな風に言った。

目黒のGNJの会場に向かっていた時、ホテルの横道を
通る人が右側をチラリと見て渡るのだった。
私もその横道を渡る時に、その方角を見ると、富士山が
朝日に輝いていた。

土地の人々は語りかける山があるのが分かる。
人々はその山を誇らしげに言うのだった。

鹿児島では開聞岳、熊本は阿蘇の山を、福岡では油山を、
山形では羽黒三山であり、富山は立山連峰である。
12月にゲシュタルト療法のワークショップで訪れたギリシャには、リカヴィトスの丘があった。

ゲシュタルトのワークショップで訪れたギリシャ・アテネのリカヴィトスの丘
(アテネ市街から望むリカヴィトスの丘)

そこに季節の移り代わりを見る人。子供の成長を重ねる人、
故郷を思い、「ほっとする」という人、「帰ってきた」という人。

屋久島は山登りでも人々を惹きつけている。
何度もゲシュタルト・ワークショップを行った屋久島
(屋久島にて撮影)

私の山は秋田から見える鳥海山である。
市内から見える鳥海山は遠くにあった。

高校時代に親友と10日間の自転車の旅に出たことがある。
最初に目指したのは鳥海山である。
今のようにサイクリング用自転車など無い時代である。
二日目にしてようやく山の麓にたどり着けた。
地元の駅の構内の長いすに寝袋で寝ていたら、
当直の駅員さんが「ここさ、来い」と当直用の彼の布団に寝かせてくれた。

そんな旅も疲れがたまり、2人とも黙り込み、黙々と岩手山を自転車で
峠を越え、最後にはケンカをして別々に汽車に乗って秋田に戻ることになった。